イップス
2015年 05月 21日
スポーツの世界に、「イップス(Yips)」という言葉がある。
過去の失敗経験から、それと似たような場面に出くわしたときに、
また同じ過ちを繰り返すのではないか、という恐怖心が先に立ち、
その経験を繰り返すことで、スランプに陥ることを指して言う言葉だ。
当初はゴルフ界で使われていた言葉だが、
今では、スポーツ界全般で使われているらしい。
先日あるお宅に訪問したときに、
患者さんの娘さんに、歩行介助の方法を教えたことがあった。
ご家族介助下での入浴を強く希望されていた方で、
そのためには、ベッドから浴室までの安全な歩行介助方法の獲得が、ぜひとも必要だった。
娘さんは以前、外出のために歩行を手伝っていたときに、
誤って玄関先で転倒させてしまったことがあり、
それ以来、自分が歩行介助を行うことを断念してきた。
自分との身長差が20㎝以上もあるというのも、断念した大きな理由だった。
ポータブルトイレへの移乗であったり、歩行であったり、
身長差の大きい方を介助する場合も、
なるべく患者さんの身体に密着した姿勢で介助するのが、一般的かもしれない。
けれども、患者さんによっては、
介助する人との距離が近すぎることで、却って患者さん自身の動きが封じられてしまい、
結果として窮屈な動作となってしまうことがある。
また、密着して動作介助をすることで、
介助者が、患者さんの不安定な動きに引きずられやすくなることも確かで、
そのために、どうしても力任せの介助となることがあり、
万一バランスを崩したときに、大きな事故へと繋がりかねない危険もある。
この方の場合も、
過去に転倒させてしまったという経験から、過度に密着して力を入れたまま、
ポータブルトイレや、車椅子への移乗を行う傾向が強く現れていた。
こういった悪循環を断ち切るため、
身体を離したままでも安全に行える介助方法を、実演も交えながらお伝えした。
転倒させないためには、
できるだけ身体を密着させて介助しなければならない、という強い思い込みから、
お互いの持っている力を利用しながらできる介助方法があり、
それを身に着けることができることを納得して頂くまでには、
繰り返し助言と指導を必要とした。
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過去の失敗体験に捕われる、つまりイップスに捕われるというのは、
何もスポーツの世界に限ったことではないと思う。
僕も、過去に何度も失敗を繰り返してきた。
そして、同じような状況に出会ったときに、また同じ失敗をするのではないかと、
ついつい考えてしまう癖がついてしまったことがある。
今思えば、そのような癖がついてしまった最大の理由は、
失敗したことの原因について、冷静に分析して考えるよりも、
その失敗自体を嘆いた方が、精神的に遥かに楽だったからだ。
失敗した原因についてしっかりと分析し、具体的に次に備えることは難しい。
いつでも全てを完璧にとはいかないからこそ、漠然と失敗することを恐れてしまう。
でも反対に、だからこそ自分のできる精一杯をやっていくしかない、
という考え方に行き着くこともある。
そうしたら、失敗することを恐れるよりも、
万が一失敗したときに、自分がどう振る舞うべきかを考えることの方が大事だ、
ということにも、気付くことができると思う。
失敗したときの自分が、恥ずかしくない自分であるためにはどうしたらいいか、
そのことを考えると、自然と力が抜けて自分のできることを精一杯やってみよう、
という気になる。
不思議なものだけど、そういう自分自身の経験を踏まえて、
患者さんのご家族にも介助や支援の方法を伝えられたら、
リハ職が行える生活支援の在り方も、随分広がるように感じている。
技術と一緒に、伝えられることはあるはずだ。
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at 2015-05-22 21:35
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ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented
by
hiro-ito55 at 2015-05-23 19:16
そうですね。
僕も過去の経験を振り返ってみると、人は成功したことよりも、失敗したことをより強く覚えているものかもしれない、と感じることがあります。
もし、人がそういう傾向を持って生まれてきたものならば、きっとそれには深い意味があるに違いない。だから、僕らは失敗にしっかりと向き合うことでしか、人生の次のステージに進めないようにできているのかもしれない、そう感じることがあります。
すみません。話が少し本文から逸れて説教くさくなってしまいましたね(^_^;)。
僕も過去の経験を振り返ってみると、人は成功したことよりも、失敗したことをより強く覚えているものかもしれない、と感じることがあります。
もし、人がそういう傾向を持って生まれてきたものならば、きっとそれには深い意味があるに違いない。だから、僕らは失敗にしっかりと向き合うことでしか、人生の次のステージに進めないようにできているのかもしれない、そう感じることがあります。
すみません。話が少し本文から逸れて説教くさくなってしまいましたね(^_^;)。
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Commented
at 2015-05-24 19:43
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ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
by hiro-ito55
| 2015-05-21 20:33
| 医療・福祉・対人支援
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Comments(3)