言葉にすること


ブログを始めてから、今月でちょうどマル三年。
今まで触れたこと、感じたことを自分の言葉に置き換えて書いてきました。

触れたことや感じたこと、それらはそのまま放っておいても、
過去の出来事として、記憶に残ることもありますが、

自分の言葉によって言い表さない限り、
どんなことでも、形あるものにすることはできないし、
しっかりと見定めることもできない、今もそういう思いで書いています。

そして、そうやって振り返ってみると、
共感できないものに対しては、自然と批判的になってしまうし、
批判的な言葉というものは、書いていてあまり気持ちのよいものではなく、

そういった言葉というものは、後から振り返ると、
僕にとっては、どうでもいいものだとさえ思えてきます。

そしてもうひとつ気付いたことは、
僕の場合は、触れたこと、感じたことというのは、
自分の意思のはたらきによって得られたもの、というよりもむしろ、
相手から与えられる共感や共有であることのほうが多いし、

それらを言い尽くそうとすることは、
言葉で表すには実に微妙で、複雑なものが日常の中にはたくさん存在していることに、
改めて気付かされる瞬間でもある、ということです。


例えば、離床訓練に汗を流す終末期の人がいる。
そしてそれを支える家族がいる。

余命数ヶ月の命を生き抜くために、彼が選択したリハビリは、
もう一度家族で、梨狩りにいくためのもの。

嚥下機能をほぼ失ったこの人は、たとえ梨狩りに行けたとしても、
家族と一緒に、採ってきたその梨を、実際に食べることはできない。

それは本人も家族も十分に理解している。

それでも、昔のように一緒に梨狩りに出かけたいと願い、伝えたのは、
恐らく、家族への言葉にならない感謝の気持ちと、
最期まで人間らしく生き切る姿、それをしっかりと見ていてほしいという決意、
その思いを伝えたいから...。


そういう姿に触れたとき、
それを言葉にするのは簡単なことではありません。

だから、
言葉で上手く表現できないものに触れたときは、
その姿に共感できるかどうかが、まずは問われるのではないか
と思っています。

何かに共感することが正しいかどうか、そういったことはまた別の問題で、
実際にそうしなければ近づくことができない問題というものが、
人やものの中には、確かにあるように思う
のです。

だから、
目の前にいる人のこと、或いは自分自身のことでもいいですが、
どんなことでも、知ることは脳の中の知的なはたらきのみを指すのではなくて、
その根本は、物事を受容し、共感することにおいて理解されるもので、

たとえそれが、
そう簡単に見定めることはできないものであったとしても、
それらを互いに分かち合うところに、
言葉というものは、現れざるを得ないのではないかと思う
のです。


言葉というものを手掛かりにして人を知るためには、
本当か嘘かで見るのではなく、共感の心で見るものだと思う。

もちろん、
人の気持ちや思いの全てを、言葉で言い尽くすことはできないし、
言葉によって人を救うことなんて、奇跡に近いことだとも思う。

でも、
言葉によって、人やものをしっかりと見つめることは、
きっと誰にでもできること。

そして、人が分かるというのは、
それに共感し、互いに共有できる言葉を、自分自身が持つことができるかどうか

だと思うのです。

だからこそ僕は、
それを言い表すための言葉を探している。

本当か嘘か、或いは、正しいか間違っているか、
そんな物差しのような言葉がほしいのではなく、
しっかりと見定めるための、たったひとつの動かぬ言葉を探している。

もし、そうして得られる言葉があったとしたら、それは、
人やものを見つめ、共有することができた人の感じる世界を、真っ直ぐに表すものだから、
そのような言葉には、きっと力があるのでしょう。

言葉は僕らの万能な道具ではなく、
ものの意味を表すただの記号や符牒であったり、

ましてや、
人の意のままになる道具や、手段であったりするわけでもないからこそ、
ときに人を傷付けたり、励ましたりする力を持ってしまう。

たったひとつの言葉でさえも、
人は喜んだり、悲しんだり、苦しんだり、悩んだりする。

殊に医療職の発する言葉は重いのです。
僕らが感じている以上に、大きな意味を与えてしまうことだってある。

だからこそ、
言葉というものを、もっと大事にしなければいけない
と思うのです。

言葉によって見つめ、知ろうとするのなら、
口の巧い人間であることよりも、言葉に絶することを知る人間...。

できれば、
医療職としても、一人の人間としても、そうありたいと思っています。

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by hiro-ito55 | 2013-08-12 00:16 | 哲学・考え方

作業療法士です。日頃考えていることを綴ります


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