物は見ない、物の名を呼ぶ


物事を知るということにおいて、
科学的という言葉が、僕にはずっと煩わしいものでした。

かつて、
真理とは、科学的真理の代名詞であった時代がありました。

今でもそうですが、
時代的通念科学的知見さえあれば、
これであたかも物事を全て知っているかのような

なんとなく、そんな気にさせられてしまうものです。

でも、本当に何かを知るということは、
そういうことではなかろうと思います

前回書いたように、作業する方の姿外部化して眺めても、
作業その人個別性
或いは、物事の掛け替えのなさを、説明することはできない

科学的に見るということは、
類似性を求めるということであり、
物と物との間に、関係性を見つけ出すということです。

とはこういう点で共通しており、このように機能し合っている
そういう相関的な関係性発見し、
この関係性...と、延々と広げていくということです。

例えば、作業に対して、
統計学を基に、あるモデルを作り出してみたところで、
この行動にはこうだ』という、それに沿ったカテゴリー解釈が、
モデルの数に比例して、いくらでも増えるだけです。

科学は、物事を外部化してその関係性に注目する学問で、
これに沿って関係性を増やすものだということは、

言い換えれば
物は見ずに、物の名を増やしていくということです。

けして、
その場に自分も入って、
その中から物事を知るということをしないのが科学的な知見であり、

物事の中に自分が入ってしまえば、
それは主観的なものだと片づけてしまう。

例えば、
何故生きるのか』『なぜ老いていくのか』という問いに対しては、
科学は、それは哲学の守備範囲であるとして、見向きもしない。

僕はここに、や人の営みである作業活動を知る上での、
科学的な知というものの、限界があるように思います。


僕らは、
科学というものは元来、物体だけを対象にしているのだ、
という重要なことを、どうしても忘れがちです。

最近は脳科学が盛んだけど、脳はただの物体です

脳科学から、人間の認知や行動に対して言えることは、
身体という物体が、こういう法則でもってこのように反応する
ということだけです。

現代科学が採用する、
精神や心は、肉体一対を成して存在しており
お互いに一対一反映し合っている
という考えは、

実は、
心身平行論という仮説の上に成り立っているにすぎません

しかも、この仮説が間違っているということは、
哲学者アンリ・ルイ・ベルグソン失語症の研究によって、
証明されていますが、

科学の側からは、
この仮説が正しいという証明は、成されていません

仮説を証明して
初めて次のステップに進むことができるのが、科学という学問ですので、

現在のところ、
人の心や精神というものがどのように存在しているのか
実は何もわかっていない、というのが正しいのです。

それでも、
人の認知行動を、科学説明することができるとするならば、
まずはこの仮説が正しいということを、
科学的に証明しなければなりません

この前提条件を飛び越えることは、科学に対する盲信であり、

前回の記事の中で書いた、
科学的でなければ作業療法ではないというのは、無神経で浅薄な言葉
というのは、そういう意味においてです。

それどころか、
精神という誰にとっても当たり前で、確実であるにも拘らず、
これほど移ろい易く、また曖昧なものはない

そいうもの抱えている人間に対して、
科学は、非常に不向きな学問なのではないでしょうか。

作業療法が、
物と物との関係性を探るだけの学問であればそれまでですが、

もし、本当作業姿知り
自分自身もその一員でありたいのならば、

共感共有というものを手掛かりに、
そこからできるだけ多くのものを汲み取る以外に方法はなく、

それには、科学でも主観でもない、
別の尺度がいるということを、知らなければならない

そういうふうに得られたものは、
その人がいなくなれば無くなってしまうような、
とても儚いものなのかもしれないが、

普遍性というものは、本来、そういう危うさを秘めたもので、

それを、
しかと我が物にすること人に与えられた叡智であると思うのです。

物は見ないで物の名を増やす、ということが科学であるならば、
人は科学というものをどんどん使えばいい

けれど、
物の名は分からないかもしれないが、それでも物を見る
ということが、人や作業を知る上での叡智であるならば、

これと親しく交わり、それを想うという想像力を殺しては、
物や人との間の、真の接触は絶たれてしまうのです。

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by hiro-ito55 | 2012-11-04 19:34 | 作業療法

作業療法士です。日頃考えていることを綴ります


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