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作られるBPSD (後)


利用者に 『今日の日付けは何月何日でしょう?』 
と、スタッフが質問している場面。

老健などの施設で、日常的に見られる光景です。

認知症の利用者とコミュニケーションを取って、
色々とやりとりをしながら、
共有する時間を持つこと自体はいいのですが、

しかし、
何故その質問をするのか
或いは、そのアプローチの仕方は、
その人に対して本当に適切な方法なのか


考えながら実施できている人は、
どれだけいるのでしょうか。


ご存知のように認知症の症状は、
主に、中核症状と呼ばれるものと、
BPSDと呼ばれる症状の、二種類に分けられますが、

今日の日付が分からなかったり、
今いる場所が分からなかったりといった
日付や場所の失見当識や、
少し前に昼食を摂ったこと自体を忘れる短期記憶の低下などは、
認知症の中核症状の代表例です。

そして、
認知症の中核症状を、
本人が自覚することによって生じる具体的な混乱が、
暴言暴力やる気や自信の喪失といった
BPSDと呼ばれる症状です。


まず、
認知症の中核症状自体は、
薬剤を用いない僕らコメディカルには、
直接的には、改善させることが望めない症状です。

そうならば、
そこを不必要に刺激して、
本人に自分の中核症状を自覚させるような行為は、
医療・介護従事者として、厳に慎むべきだと思います。

以前書いた記事と内容が重複しますが、
僕らのそのような行為によって、
やる気や自信の喪失も含めて、
利用者のBPSDを、顕在化させることもあるからです。


例えば、
冒頭にも挙げたような、
利用者に 『今日の日付けは?』 と、職員が質問している場面。

もし、その質問に答えられなかった(間違った)場合、
それは、自分に欠けているものがある(喪失体験)ことや、
間違ってしまった(失敗体験)ことを、
他人によって、改めて自覚させられるということです。

利用者の中には、その原因を、
自分がボケてきているためだと、
はっきり認識できる方だっているのです。


できない体験』 を、
改めて 『できないこと』 として本人に確認させる

そのことに、
やる気や自信の喪失という結果以外に、
それを打ち消すほどの、何か大きな利点があるのでしょうか。

僕が、
入所後、しばらくしてからBPSDが顕在化してくるような場合は、
原因が、薬剤の変更などによるものでないならば、
それが、
施設生活によって作られたBPSDである可能性が高いと思うのは、
職員が中核症状を不用意に刺激している現実もあるから
だと思うからです。

だから、
リハビリやレクリエーションの度に、
認知症のある方に 『今日は、何月何日ですか?』 などと、
不用意に訊くべきではないのです。


しかし、そもそもこういった質問を日常的に行うというのは、
中核症状 = 問題点 と捉える考え方が、
専門職の中でも、まだまだ根強いのかもしれません。

例えば僕の職場では、
BPSDのことを 『問題行動』 と呼んでいる職員が、
リハ職員も含めて、未だに数多くいます

対象となる利用者には、
毎日の記録に 『問題行動の有無』 という形で、
確認したその 『問題行動』 を記載しています。

今日は、何月何日ですか?』 などと質問して、
利用者の中核症状を本人に確認させる機会を提供しながら、
その結果、生じた行動を問題行動として捉える

という二重の苦痛を、利用者に与えているのです。


中核症状それ自体は、
その段階においては、別に問題行動ではないのですから、

それを周りが問題視することで、
本人にもそれを 『問題』 としてフィードバックさせてしまう
というのは、

明らかに、
認知症の方に対する差別的行為です。


その結果、利用者に様々な混乱がもたらされたとしても、
そのことに無自覚であれば、

自分たちが問題を作り出している
ということが分からない


最初から 『問題』 だったのではない
ということが分からない



こういった、
認知症の方に対する間違った接し方は、
早晩、なんとかしなければならない問題だと思うのです。


作られるBPSD (後)_b0197735_23235972.jpg


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by hiro-ito55 | 2012-04-22 23:42 | 医療・福祉・対人支援 | Comments(0)

作業療法士です。日頃考えていることを綴ります。


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