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時間の価値と作業療法③

前回の記事で気づいた方もいらっしゃるかもしれませんが、
改めて自分の文章を読み返してみると、

僕自身も 『物質的価値観のロジック』 に、
知らず知らずのうちに陥ってしまっているのではないか、

と疑問に思い始めました。

注意深く読み返してみると、確かにその兆候らしきものは、あるのです。
で打ち消そうとしている、と取れなくもないのです。


ですので、ここではとりあえず、これ以上深入りするのを避け、

『空間的な有意差ばかりに目を奪われることは、
 作業療法における作業をどう評価するのか、という根源的問題にも関わってくる』


と言うに留めておきたいと思います。


その上で補足を付け加えるならば、 
『その人の在り方を尊重する』という姿勢が大事
であることを、強調しておきたいと思います。

例えば貼り絵であれば、
この利用者は、この時間にこれだけの色紙を貼ってくれたのだから、
この人にとって貼り絵が意味のある作業であるに違いない、
と評価するとします。

確かにその通りかもしれません

出力されたものだけを評価すれば、
そのような評価になるのも仕方のないことです。


しかし、この作業量の多い利用者が、
実は隣の参加者の作業の遅さにイラついて、
その人の分まで作業を横取り (言葉は悪いですが) していたのであれば、
どうでしょう。

加えて、その隣席の参加者が、控えめな性格であれば。
(集団作業の実際場面では、このような場面は見かけるものです。)

これは、その人にとって 意味のある作業 と言えるでしょうか。

貼り絵などの集団作業においては、作業量の多い方を
集団のリーダー的役割に据えて、
全体としての作業を纏まりあるものに導いていく手もあります。

それは、他のパラレルな活動においても同じことです。

しかし、能力的な区分は、注意深く用いなければ 
作業量を媒体とした差別』 にもなり得ます。


活動量の多さを評価することが良い場合もありますし、
意味のある作業を探すのも僕らの仕事のひとつであるので、
ある意味これはしょうがないことなのですが、

しかし、 『その人の在り方を尊重する』 ということから、
僕らの援助というものはスタートするのであって、

けして 『相対的価値観』や、 『それに付随する論理』 からスタートするのではない
ということは、忘れてはならないことだと思います。


つまり、いきなり対象者にツールを当て嵌めて評価するのではなく、
まずは 『汲み取っていく』 という姿勢で、
僕らの感覚をオープンにすることを、第一義にするということです。

『その人の在り方』 の中には、言語化できないものも、
行動化できないものも含まれているし、
それをまずは感じ取ってほしい
ということです。

ツールに頼らず、
まずはそこからスタートすることのできる人が、
本当に良い作業療法士なのでしょう。


危険なのは、
自分にはその汲み取る感性がないのではないか
自信を無くしてしまうことです。

感性は誰にでも備わっています

肝心なのは、その感性を科学でごまかさない、隠してしまわないことです。

隠さなければ、感性は経験のうちに磨いていけます


経験の浅い新人OTさんや、実習生に 『こんな便利なツールがあるよ。』 
エサをチラつかせて、それに飛びつかせるのではなく、

失敗、挫折、反駁、
そういった 『感性を剥き出しにする経験』 を多く与えてあげるのが、
僕ら経験者の責任ではないでしょうか。

既に 『価値があると分かっているもの』 を最初に与えるのではなく、 
その時点では価値があるかどうかは分からない けど、
拾っていくうちに これいいかもね と思えるものを拾っていけるようになる経験、

それが感性を磨く経験であるし、学びや成長の本質的動機です。


出来上がったツールというものは、たいへん便利なものですが、
そのように考えれば、便利であるが故に 『対象者の在り方』 のみならず、
僕ら経験者のIdentityを狭めてしまう危険もありそうです。

例えば、30cm定規では光の量や硬さなどは測れません。
測れるのは 『長さ』 だけです。

長さしか測れないものを最初に当て嵌めて、
光の量や硬さまで知ろうなどとは、
科学に対する無知の成せる業、或いは冒涜ではないでしょうか。

それでも30cm定規に拘ったり、それを50cmや70cmに延ばして 
あ、これだけ測れるようになった。』 と喜んだりして満足しているようでは、
作業療法士自身が、自己陶酔の世界を抜け出すことはできません。


昨今の動きを見ていると、
今、作業療法はそのような危機に陥ろうとしているように思いますが、

作業療法を、そのようなNarcissismに陥れてはいけません。
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by hiro-ito55 | 2011-06-26 17:11 | 作業療法 | Comments(0)

作業療法士です。日頃考えていることを綴ります。


by いとちゅー