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追悼 レヴィ=ストロース


Claude Lévi-Strauss(1908~2009)
クロード・レヴィ=ストロース。ブリュッセル生まれの人類学者。
著書に『構造人類学』、『野生の思考』、『神話学』、『悲しき熱帯』など。

レヴィ=ストロースが亡くなって、
10月30日でちょうど一年が経ちました。

彼は、ソシュールに始まり、
ヤコブソンへと受け継がれた『構造言語学』 における 『音韻論』 を、
人類学という分野において発展させ、

今日一般的に言われる意味での 
『構造主義』 を作り上げた人です。


構造主義とは、非常に乱暴な言い方をすれば、
『我々は常に歴史的、空間的な制約の中に生きている。
 そのため、真に客観的・普遍的に物事を捉えることはできない。
 そして、そのように世界を見るならば、
 Aという立場に立脚した人間が、Bという立場に置かれた人間よりも
 常に正しく、普遍的に物事を見ていると言い切ることは不可能であり、
 論理的にも基礎づけることはできない。』
という、

相対主義が跋扈する今日においては、
半ば常識のように捉えられている『視点』を、提示しています。


レヴィ=ストロースは、
日本には1977年に初めて訪れて以来、
その後、数度に渡り滞在しています。

彼はまた非常な親日家でもあり、
日本の文化や神話などにも深い洞察を加えています。

特に1988年に来日した際は、
京都で 『混合と独創の文化』 と題した講演を行っています。

そこで彼は、『古事記』 や 『日本書紀』 などの日本の神話に触れ、
日本の文化の本質についての考察を述べています。

その中で、
日本の神話における特徴を 
『生と死との大きな対立を述べている』 
と分析し、

その対立を、
『交換』という行為において『中和』し、
中和したものは双方の『二重性を含んでしまう』ために、大きな代価を支払う。
と述べています。

そして、この対立を、
『空間の対立』 と 『時間の対立』 という、
次元の異なる対立項に分けて考察し、

空間の対立に周期的なリズムを与えることで、
再び時間の世界に属するという 『円環』 が与えられることにより、
その二律背反に解決が図られる。
と、分析しています。


このような分析から、
日本はその内部においては 『出会いと混和の場所』 であり、

また、外部においてはその地理的な位置から、
貴重なエッセンスだけを取り込むことのできる 
『フィルター』 の役割を果たしてきたとし、

このような日本の特質を、
『シンクレティズム(混合)とオリジナリティ(独創)の反復交替』
によって規定されるものである
として、

そのことが
『世界における日本文化の位置と役割を規定するのに最も相応しい』
と結論付けています。


彼の異文化に対する分析も然ることながら、
卓越なのは、西洋人にとっては 『質』 の異なる日本文化に対して、
オリエンタリズム的な視点で臨まず、

むしろ、それを超えた視点で語ろうとしたことです。

その視点は、『親和』 という言葉に置き換えられると思います。

『親和』 とは、
『その文化に属する人たちが感ずるのと同じように感じようとした』
ということです。

彼は日本語を話すことはできませんでしたので、
英訳された古事記や日本書紀を通して、

日本の古代人が感じた世界観を、
そのままの形で感じ取ろうとしたのでしょう。

この姿勢は、外部からの 『分析』 という視点を、
ある意味超越していなければ採れない構えです。

何故なら、外部からの分析という行為は 
『分析する主体』 と 『分析される客体』 を作り出すため、

異文化理解にこの関係を持ち込むことは、
『西洋人から見た日本』 という枠の中で思考することを意味し、

飽く迄、 
『西洋人にとって、意味のあると感じられるものだけが抽出される』 
という構図を描くことを意味します。

そして、これこそが、オリエンタリズムの思考なのです。


もともと 『質』 の異なる異文化に対して、
主体からの一方的な解釈を許さず、

『異質』 には 『異質』 の 『視点』 があり、
そこから見える世界が、我々西洋人と違うのは当たり前のことであり、

それは、本質的に優劣を競うものですらないということを、
彼は、人類学の基本姿勢として貫いてきました。

そして彼は、
自分が西洋文化圏に属する人間であり、
そこからの視点から完全に離れることは不可能であることを自覚しながらも、

異文化を理解するこのような思考に辿り着いた、
そのバランス感覚たるや、正に卓越の一言です。

相対主義そのものには充分に注意しつつも、
彼が残した構造主義的な視点を、彼からの贈り物として、
『質』の異なる『医療人』同士の『チーム医療』に生かせていければ、
面白いのではないでしょうか。




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by hiro-ito55 | 2010-10-31 21:49 | 哲学・考え方 | Comments(0)

作業療法士です。日頃考えていることを綴ります。


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