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お花見


「あそこにサルノコシカケができとるから、これももう老木なんだろうなぁ」
妻が握ったおにぎりを頬張りながら、樹齢50年にもなる桜の木を見上げ、その人は呟いた。

サルノコシカケとは、茸の一種で、
木の幹にこれがいくつもできると、桜の木もそろそろ寿命を迎える時期になるのだそうだ。

その日は、庭に咲いた桜を眺めながら、家族そろってのお花見。
今年はリハビリの歩行練習がてらだけど、
去年亡くなった娘さんの遺影とともに、無事桜を愛でることができた。

桜の真横には、いつのまにか椿の真っ赤な花が数輪咲いている。
どこからか、鳥が種を運んできたようだ。

そして、数メートル横には剪定したばかりの杉の木が三本並んでいる。
紫陽花は葉を着けたばかり。檜は去年のままの姿だ。


椅子に腰かけ、この一年間庭に起こった出来事を妻から聞かされた。
夏には、毛虫が着いてたいへんだったこと。
秋には、台風で枝が何本も折れたこと。
冬には、息子家族が雪かきの手伝いに来てくれたこと。

妻が話すたびに、「ああ、そうかそうか」と頷く。
今年も変わらず木や花が、それぞれの姿で育ってくれている。
今は、それが何よりも嬉しい。

娘がもういないことと、自由にならない自分の体があること。
それでも季節は、巡ってくるのだとしても。

ひとつの家族に起こった、いくつもの出来事など、
まるで関係がないかのように、月日は流れていく。


その人の望みは、桜の木を見ることだった。
それに触れ、娘と変わらぬ笑顔を交わすことだった。

笑い声の飛び交う桜の木の下で....。


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by hiro-ito55 | 2017-04-09 19:46 | 医療・福祉・対人支援 | Comments(0)

作業療法士です。日頃考えていることを綴ります。


by いとちゅー