お花見
2017年 04月 09日
「あそこにサルノコシカケができとるから、これももう老木なんだろうなぁ」
妻が握ったおにぎりを頬張りながら、樹齢50年にもなる桜の木を見上げ、その人は呟いた。
サルノコシカケとは、茸の一種で、
木の幹にこれがいくつもできると、桜の木もそろそろ寿命を迎える時期になるのだそうだ。
その日は、庭に咲いた桜を眺めながら、家族そろってのお花見。
今年はリハビリの歩行練習がてらだけど、
去年亡くなった娘さんの遺影とともに、無事桜を愛でることができた。
桜の真横には、いつのまにか椿の真っ赤な花が数輪咲いている。
どこからか、鳥が種を運んできたようだ。
そして、数メートル横には剪定したばかりの杉の木が三本並んでいる。
紫陽花は葉を着けたばかり。檜は去年のままの姿だ。
椅子に腰かけ、この一年間庭に起こった出来事を妻から聞かされた。
夏には、毛虫が着いてたいへんだったこと。
秋には、台風で枝が何本も折れたこと。
冬には、息子家族が雪かきの手伝いに来てくれたこと。
妻が話すたびに、「ああ、そうかそうか」と頷く。
今年も変わらず木や花が、それぞれの姿で育ってくれている。
今は、それが何よりも嬉しい。
娘がもういないことと、自由にならない自分の体があること。
それでも季節は、巡ってくるのだとしても。
ひとつの家族に起こった、いくつもの出来事など、
まるで関係がないかのように、月日は流れていく。
その人の望みは、桜の木を見ることだった。
それに触れ、娘と変わらぬ笑顔を交わすことだった。
笑い声の飛び交う桜の木の下で....。
by hiro-ito55
| 2017-04-09 19:46
| 医療・福祉・対人支援
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