樫の木モック


小さい頃、テレビアニメで『樫の木モック』というのがあった。
僕が見たのは再放送だったけど、その中で大人になっても覚えている話が一つだけある。
めでたしめでたしというか、それがどうしようもなく救われない話だったので、
今でも覚えているのだと思う。

物語に登場するモックは、
木彫り職人のお爺さんが、樫の木から作ったマリオネットの人形。

人形が完成すると命を吹き込まれ、
そこからまるで、一人の人間のように振る舞うことができるようになった。

そしてそこから、お爺さんとの二人暮らしが始まるのだけど、
ある日モックは、学校の同級生の誕生日に催される、食事会に招待されることになった。

その同級生の家はたいへんなお金持ちで、
貧しい暮らしをしていたモックたちには縁遠い場所だったけど、
ぜひにということで、お爺さんも一緒に招待されることになった。

でも実はそれは、親切なお誘いではなく、
テーブルマナーも知らない彼らを招待することで、公の場で二人に恥をかかせようという、
意地悪な同級生たちの策略だった。

見たことも味わったこともない、スープやステーキやケーキ。
お爺さんは次々と運ばれてくるそれらを、美味しそうに食べ始める。
一生味わえないと思っていたご馳走に、我を忘れて夢中になる。
スープは皿から直接飲み干し、ステーキは歯で喰いちぎり、お酒はガブ飲み。

ガツガツと料理を平らげていくお爺さんを見て、
同級生の両親や召使いたちは、蔑むような視線を彼に送り、
意地悪な同級生たちは、ただニヤニヤと笑っている。
やがて彼らは、「汚らしい」「卑しい」という言葉を口にしはじめる。

その様子に耐えられなくなったモックは、
ついにお爺さんに「恥ずかしいからもう帰ってくれ!」と叫んでしまう。

自分が場違いな人間であることに気づいたお爺さんは、
モックに対する申し訳なさと、恥ずかしさでいっぱいになり、
「ごめんよモック」と呟いて退室し、暗い夜道を一人歩いて家路に向かう....。


大人になるまでこのお話しを思い出すのが、僕はとても嫌だった。

お話しの最後に、モックとお爺さんは仲直りするのだけど、
戻ったのは、モックとお爺さん二人だけの、今まで通りの貧しい暮らしだけ。
食事会に出席した他の登場人物たちは、物語の中で、
自分たちの悪意で他人を傷つけたことなど、少しも省みることはない。

だからこれは、どうしようもなく救われない話として、
それからの僕の心に残ってしまった。

もし登場人物の中で、
お爺さんと一緒になってガツガツと食べる、そんな心優しい少年が一人いたなら、
きっとこのお話しは、幼かった僕の心をあんなにもざわつかせることはなかったと思う。

「フランダースの犬」や「ザンボットスリー」など、
最終回では悲しい結末で終わったアニメも色々あるけれど、
子供ごころにも救いのなさを一番に感じたのは、僕にとっては樫の木モックのこのお話だった。











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by hiro-ito55 | 2016-06-01 00:01 | 日常あれこれ | Comments(0)

作業療法士です。日頃考えていることを綴ります


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