考える生き方のヒント       ~今、伝えたいこと~

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伝わること


重度の認知症を抱え、ベッド上で寝たきりの患者さんがいる。
一日中ベッドの上で過ごし毎日が過ぎてゆくが、
妻や娘や孫に囲まれ、家の中はいつもとても賑やか。

ベッド脇には、結婚式の写真が飾られている。
妻はいつも、夫と一緒に行った旅行の思い出話や、新婚時代の幸せだった日々の話をされ、
夫も時々、思い出したように微笑する。

今は一人で起き上がることもできないが、
妻や家族にとっては、今でも大切な夫であることに変わりはないことが、
訪問させて頂くたびに、僕にもしっかりと伝わってくる。

妻や娘にとっての大きな疑問は、自分たちの話が夫には分かっているのかということ。

孫の顔を見て微笑んだり、妻の声掛けに頷いたり....、
その姿は、健康であった頃の夫の表情と何ひとつ変わらないけれど、
ただいつも穏やかなだけの顔に、自分から言葉を発しない夫に、
私たちのことが本当に分かっているのか、とても不安になることがある。

先日、初めての訪問入浴があった。
そのとき夫は、妻の手を握り激しく抵抗したという。

数人の見知らぬ人がベッドに集まり、入浴するためにベッド上で衣服を脱がされたとき、
妻の手を強く握りながら、大きな叫び声をあげた....。


人にとっていちばんの恐怖は、自分の意思が誰にも伝えられなくなることだと思う。

耳が聞こえない。目が見えない。
それも確かに恐怖には違いないが、相手に自分の意思が伝えられれば、
その恐怖は、孤独には繋がらない。

でも、耳が聞こえていても、目が見えていても、
誰にも自分の意思が伝わらないのだとしたら、それは絶対的な恐怖になるのだと思う。

重度の認知症を抱えた患者さんは、自分の意思を上手く伝えられないことが多い。
でも、伝えられないからといって、何も感じていないということにはならない。


微笑んだり、大声をあげたり....、
それはみんな、ちゃんと伝わっている証拠。

だから妻には、分かっているのか分かっていないのかで悩むよりも、
しっかりと伝わっていることが大事だと、お話しさせて頂いた。

夫からの言葉を聞けなくなったことは、確かに辛いことかもしれないけれど、
意思を上手く伝えられない不安や恐怖を分かってあげられるのは、ご家族しかいない。

孫の顔を見て微笑んだり、妻の声掛けに頷いたり。
それは本人が、何よりも安心できているからこそ見せてくれる、精一杯の心。

認知症を抱えているから、理解できていないのではないかと不安になるよりも、
伝わっていることを、しっかりと受け止めてあげること。

それが、たとえ自分たちにしか分からないサインだったとしても、
大事な人だからこそ、しっかりと受け止めてあげてほしいと思う。


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Commented by mahorou at 2015-10-23 19:00
hiroさん、こんばんは。
今日も素晴らしい記事をありがとうございました。
すごく考えさせられましたし、自分もそういう風に受け止めたいと思いました。
これほど深く介護にかかわっておられるhiroさんがいらっしゃって、
そのご家族は大変安心されますね。。。
Commented by hiro-ito55 at 2015-10-24 19:08
mahorouさん、こんばんは。
僕も、「相手の気持ちに寄り添う」と言われても、今まで何だかずっとしっくりこなかったのです。
でも、伝わるんだと思えば、たとえそれが誤解でも、患者さんを大切に思う気持ちが自然と感じられることに気付けました。
これからも、そこからリハ職としてできることは何か、と考えています。

そういう気持ちは在宅リハだからこそ、ですね。この仕事に感謝です(^・^)。
by hiro-ito55 | 2015-10-20 22:01 | 医療・福祉・対人支援 | Comments(2)

作業療法士です。日頃考えていることを綴ります


by いとちゅー