考える生き方のヒント       ~今、伝えたいこと~

hiroyan55.exblog.jp
ブログトップ

在宅での作業療法の実際

本日、研修会での発表が無事終了した。
タイトルは「在宅での作業療法の実際」。

時間の関係で、事前に準備した前半部分のみの発表となったけれど、
聞きに来て下さったケアマネさんやヘルパーさんたちに、
OTが、利用者さんのどんなところに着目してリハビリを進めているか、
それを、少しだけでも分かって頂けたように思う。

今回は、事前に利用者さんの許可も頂けていたので、
このブログでも、その内容を紹介させて頂く(長文です)。



           ――『在宅での作業療法の実際』――

病院や施設など、どの分野にもOTはいますが、
具体的に、「OTって何をやる人なの」、「作業療法をやることで、どんな効果があるの」
と、疑問を持たれる方もいらっしゃるかもしれません。

ですので、OTはどんなところに着目してリハビリを行っているのか、
僕の方から事例を上げて、少しお話させて頂きたいと思います。

まず最初の事例ですが、
病院から退院されることを機に、訪問リハが依頼された方です。


事例
・Nさん(男性)83歳 要介護3(アパート1階で奥さまとの二人暮らし)
 既往歴:脳梗塞後遺症(右不全麻痺) 胆管ガン 軽度構音障害
 ADL状況:起き上がり~端坐位までと、着替えは可能(筋力不足のため時間が掛かる)
 介助下で四点杖での短距離歩行は可能(バルーンカテーテル留置)
 他職種の介入 ⇒ ヘルパー:毎日の食事準備 全身清拭 居室の掃除 尿処理
          看護  :服薬管理 状態観察 尿処理 嚥下体操


こうして、Nさんの在宅生活が継続できるよう、
ヘルパー、看護、リハが共同して、支えていく体制がとられました。

リハとしては...、
本人の「自分の力で歩きたい」、「動けなくなるのやイヤだ」という要望を受けて、
まずは、機能訓練をしながら、基本動作能力とアパート内での移動能力の向上を図る、
という目的でOTが始まりました。

その後は、デイサービス定期利用や、
趣味活動の再開なども視野に入れながらの、介入となっていきました。

リハ開始時点では、機能訓練に対する意欲はみられましたが、
デイや趣味の再開といった、目的を持った活動に対するモチベーションは結構低かった方です。

「人と話をしたり、絵を描くことは好き」だけど、
それを上手く実現するための具体的な方法も分からないし、
本当にやれるのかどうか、その時点では、現実的な自信がなかった方です。

ここまでのことを整理しますと、以下のようになります。

ICF分類
健康状態:脳梗塞後遺症 胆管ガン 
心身機能・身体構造:右不全麻痺 筋力低下 軽度構音障害
活動:起床~歩行まで可能だが、歩行はしていない
参加:臥床しているかベッドに腰掛けてテレビを観ている
    離床するのはP-トイレ使用時
環境因子:介護力不足(奥さまが重度の認知症のため) 活動支援不足
個人因子:目的を持って離床・活動する意欲の喪失


ヘルパーさんは、毎日の食事準備、全身清拭といった支援で、
介護力不足を補うことができますし、
看護師さんは、服薬管理、状態観察といった支援で、
心身を良好に保ち、健康状態の悪化を防ぐことができます。

こういった支援が、「活動」や「参加」にも良い影響を与えていくものと思われますが、
リハとして僕が着目したのは、環境因子の中の「活動支援不足」と、
個人因子である「目的を持って離床・活動する意欲の喪失」、の2つの部分になります。

この2つの部分を補うことができれば、
活動や参加の幅が広がって、QOLが上がり、生活にハリが出てくるのではないか、
と考えました。

僕に限らず、だいたいのOTさんは、
環境因子と個人因子を改善することで、活動や参加の状態を良い方向に持っていく、
という点に着目しますが、Nさんに関しても、そういう観点からリハを進めていきました。

「動けなくなるのイヤ」「自分の力で歩きたい」という動機があったので、
機能訓練には、このように頑張って取り組んで下さいました。

b0197735_2251359.jpg


b0197735_2253396.jpg


b0197735_2255721.jpg



その結果、だいたいリハ開始から三か月ぐらいで、
見守りで玄関まで移動できるようになりまして、
その頃になると、本人にも少しずつ気持ちの変化が現れ始めました。

少しずつですが、
デイサービス利用について、前向きな発言が聞かれるようになったのが、
この頃からです。

「人と話をしたい」という隠れた動機がまずあって、
それが最初は「行きたいな。でも行けるかな」だったのが、
「ひょっとしたら行けるかもしれない」というふうに、心境が変化していきました。

「ICFの分類」に沿って考えてみますと、
環境因子の中の「活動支援不足」をOTが補うことで、活動や参加の幅が広がり、
個人因子である「目的を持って離床・活動する意欲の喪失の意欲の喪失」
を、少し改善することができました。

これが、初期の段階でみられた効果です。

そして、玄関まで見守りで歩けるようになったことで、
心身の活動性は上がってきたのですが....、

アパートの玄関を出るとすぐに、写真のような階段がありまして、
もし仮に、デイの定期利用が可能になったとしても、
この階段昇降の動作は、どうしても必要となってきます。

b0197735_2265674.jpg

        注):手摺りが一方にしか付いていない

ですので、玄関前までの歩行が可能になった時点で、階段昇降練習を開始しました。
Nさん自身、とっても頑張って階段昇降練習に取り組んで下さいまして、

昇りは、「左手で手摺りを掴んで、自力で体を引き上げ、二足一段で昇れる」、
下りは、「右手で手摺り、左手で杖を使って、介助者に体を支えてもらいながら、
ゆっくりと降りることができる」といったところまで、行えるようになりました。

そして、そういったここまでの細かな現状も含めて、
ケアマネさんに現状を報告したところ、早速、デイと連絡を取って下さいまして、
デイの方から、昇降介助を送迎スタッフで行うので、一度お試しで来て下さい
という返事も頂けました。

その後、一度実際にお試しでデイを利用したときに、
スタッフの介助に安心できたという感想を持つことができまして、
そこから、支援開始から凡そ6か月で、無事デイサービス利用へと、
結び付けることができました。

.....、これでまたひとつ、活動の幅を広げることができました。


また、デイの定期利用が可能になると、
Nさん自身から、趣味の絵画について語って下さることが多くなりまして、
「ボチボチ描いてみようかなぁ」という発言も、聞かれるようになりました。

部屋には、Nさんが描いた絵や撮った写真が飾ってあります....。

b0197735_2273351.jpg


b0197735_2275788.jpg


b0197735_2281589.jpg


b0197735_2283614.jpg


b0197735_2285415.jpg



アルバムに収められたものや、壁に飾られたものを見ると、
今までに恐らく、1000枚以上の絵は描かれてきたと思われます。
でも病気になって、身体が不自由になってからは気力がなくなり、
描くことをぱったりと止めていました。

それでも、絵の具や筆といった画材道具、白紙の色紙やカメラなどは、
今でも大切に保管されていました。

絵自体もお上手なんですけど、
Nさんは、描いた絵を人に見てもらうことが、とても嬉しい方です。
今までも、描いた絵のほとんどは他人にあげています。
リハ中にもアルバムに収められた絵の写真を見せてくれることが、何度もありました。

ですので、問題は、「ボチボチ絵を描いてみようかな」、と思うようになった、
そういうNさんの活動意欲を「人に喜んでもらえるような活動へと結び付けていく」、
そのための上手い方法が、あるかどうかということでした。

そして、ひとつ思いついたのが、
OTジャーナルという機関誌(全国紙)の表紙に応募することでした。

OTジャーナルは、利用者さんや患者さんの描かれた絵を、毎号表紙に採用しています。
これを実際に本人にも見て頂き、お話もさせて頂いたところ、興味は持たれましたが、
「やっぱりまだ、昔のように上手く描けるか、自信がない」という返事でした。

ですので、
まずは、雑誌の写真を模写することから始めてみては、と提案しました。

その時にその話と合わせて、
「描いた絵を見せるのは、僕と訪問に入っている看護師さんだけ」
という約束もしました。

幸いにも、「まあ、それならいいよ」と言って下さったので、
早速Nさんと一緒に、リハの合間に写真を選ぶ作業に取り掛かりました。

で、いくつか気に入った写真を選んで頂きまして、
そこから、本当に何年ぶりかの絵を、少しずつですが、描いていかれました。

そこからだいたい一か月後...。
1枚の絵が完成しました。
b0197735_22112561.jpg


完成作品がとても立派なものであることに、僕自身もびっくりしたのですが、
訪問に入っている看護師さんにも見て頂いたところ、
「Nさん、こんなに上手に描けるんだ」と、たいへん驚いていました。

そして、その感想を本人にお伝えしたところ、とても喜んで下さいまして、
そこからさらに、3枚ぐらいの絵を描いて頂きました。

そしてその後、改めて応募に向けて描いてみては、とお話させて頂きましたところ、
良い返事が頂けましたので、そこからOTジャーナル表紙絵応募に向けて、
描いて頂けるようになりました。

途中、閉塞性黄疸や脱水の治療のために入院して、何度か活動が中断しましたが、
3枚の絵を、5か月ほどかけて丁寧に描き上げることができました。

そして先月、僕が責任を持って、出版元の三輪書店に作品を送付させて頂きました。
もし採用されれば、来年のOTジャーナルの表紙になりますので、
今からNさんも、それをとても楽しみにしています。

絵を描き上げて下さったその後は、デイの方でも絵手紙を描いて下さっていまして、
継続的に絵を描くことを、続けていらっしゃいます。


訪問させて頂いているリハの時間だけでは、正直やれることには限界がありますので、
こうやって、Nさん自身が自主的に活動して頂けるようになったことで、
楽しみだって続けられるし、生活の質を変えることができる、

その結果の喜びを、Nさんを含めたみんなで共有することができたこと、
それが、チーム医療で支えることの意味のひとつでもある、と感じました。


まとめ
今回ご紹介させて頂いたのは、ほんの一例にすぎませんが、
利用者様に生活にハリを持って頂き、生きがいを感じて頂いたり、
或いは、QOLを上げて生活を支え、希望を持って過ごしていただけるようサポートし、
その人らしく生活できることを支援していくのも、チーム医療の中でのOTの役割です。

ですから、リハビリを行って、単に身体機能が向上したというだけではなく、
他職種の方と情報を共有しながら、連携していくことが重要なのだと感じています。

そして、その結果の喜びを、利用者様を含めたみんなで共有できるということも、
チーム医療で関わることの効果になるのだと思います。

OTは、利用者様の抱える問題点をこのような形で捉えて、
それを改善していくためのよい方法を、一緒に考えていく職種ですので、
利用者様のことで何かお困りのことがありましたら、何でもご相談下さい。

ご清聴ありがとうございました。

b0197735_221287.jpg

[PR]
by hiro-ito55 | 2015-07-14 22:21 | 作業療法 | Comments(0)

作業療法士です。日頃考えていることを綴ります


by いとちゅー