思い込みによる弊害
2012年 11月 25日
『この利用者さんとは私も久しぶりにお会いするのですが、
この方には、嚥下体操を強くお勧めしておきました。』
担当ケアマネさんからの突然の電話連絡に、
思わず『え!?』と答えて絶句してしまいました。
その方の食事中の咽込みについては、モニタリングなどを通して
担当ケアマネさんに今まで何度も上申しており、
呂律が回らない、言葉を噛むといった問題や、
食事後に口腔内に食物残差物が残るといった問題、
異食行為や食べ物を上手く口元に運ぶことがでない、
などの認知機能の障害は見受けられないこと、
そういった情報は幾度となく伝えてあるはずなのに、
その電話一本の反応で、
こちら側の情報が全て無効にされてしまったような、
残念な気持ちになりました。
電話での話を聞くうちに、どうやらそのケアマネさんの頭の中では、
咽込み ⇒ 嚥下体操 という図式が既に出来上がっていて、
咽込みのある利用者さんには、とにかく嚥下体操を行なえば良くなる
という、間違った思い込みをされているようでした。
利用者さんと細目にお会いして接していれば、
或いは、いつも一番近くにいるご家族にお話を伺えば、
本人に呂律の問題や食物残差物の問題、
異食行為や弄食などの、認知機能の問題が全く見られないことは、
すぐに分かるはずだし、
摂食・嚥下についての最低限の知識を持っていれば、
嚥下のどの相での問題であるか、といったことは明白なはずです。
ならば、この利用者さんの場合、
今問題となっているのは、咽頭期や食道期での機能低下であり、
STなどの嚥下の専門家ではない僕らが、
取り敢えずの対応として出来ることは、
反射運動や重力、蠕動運動が上手く働くためにはどうすればよいか、
を考えることです。
そのためには、例えば、
横を向きながら食べ物を飲み込まない、
食べ物を口にしているときには話し掛けない、
といった環境を整えることも、ひとつの手でしょう。
嚥下体操で、
随意筋の動きを促すことが無効だとは言いませんが、
それよりも、
今は、形成された食塊をスムーズに胃に送り込む環境作り、
それを考えることが、重要な段階であること、
そのことを、嚥下のメカニズムと併せて説明したのですが、
『それよりもとにかく嚥下体操を』というのが、
このケアマネさんの方針。
そしてボケないためにも、
みんなでわいわいお喋りをしながら楽しく食事をしましょうと、
事ある毎に、ご本人とご家族に勧めている様子。
対人支援の基本は、
僕ら専門職が良いと思うものをまず提供するのではなく、
ひとつには、利用者さんの潜在能力を上手く引き出すこと、
そしてそれを支援することにおいて、僕らの専門性が発揮されます。
しかし、自分の思い込みが強ければ強いほど、
そういう重要なことに、気付くことができない。
結果として、利用者さんの不利益に繋がったり、
危険因子を増やすことになったりしたとしても、
僕の経験から言えば、そこにあるのは身勝手な弁解ばかりです。
そんな状況で、この方のサービス担当者会議に臨んだので、
当然、ケアマネさんとの話は噛み合わない。
なぜ嚥下体操を勧めているのか、
その根拠についても話をはぐらかすだけで、
ご本人やご家族にも、何も示して頂けない。
幸いにご家族とご本人には、
僕の伝えたいことを充分ご理解して頂け、
後日、彼らから、
嚥下や食事に関する、素直な相談もして頂けたので良かったものの、
僕にとっては、対人支援や専門職としての在り方など、
根本的なことを考えさせられた一例でした。
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at 2013-05-30 11:12
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ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
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hiro-ito55 at 2013-05-30 21:10
kaoruさん、こんばんは(^_^)。
非常に参考になるご意見を、ありがとうございます。
ご指摘の通り、僕ら専門職にとって相手に理解して頂けるように説明すること、そのための言葉を持つことは、非常に大事ですね(^_^)。
相手の無理解を責めても話が進むことはなく、結局利用者さんにとっての不利益にもなりかねないですもんね。
当たり前のことですが、こういったことも含めて日々勉強です(^_^)。
kaoruさん、これからも宜しくお願いします。
また気軽にご意見をお寄せください。
非常に参考になるご意見を、ありがとうございます。
ご指摘の通り、僕ら専門職にとって相手に理解して頂けるように説明すること、そのための言葉を持つことは、非常に大事ですね(^_^)。
相手の無理解を責めても話が進むことはなく、結局利用者さんにとっての不利益にもなりかねないですもんね。
当たり前のことですが、こういったことも含めて日々勉強です(^_^)。
kaoruさん、これからも宜しくお願いします。
また気軽にご意見をお寄せください。
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at 2013-06-01 11:51
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hiro-ito55 at 2013-06-01 19:49
kaoruさんありがとうございます(^_^)。
リハビリの仕事をしていると、
科学だけじゃどうにも割り切れないものに出くわすことがあると思います。
僕らはついつい、
あるひとつの方法論を立てれば、対象が自ずと明らかになってくると思い込みがちですが、実はそうでないこともいっぱいある。
コミュニケーションもそのひとつだと思うのです。
実は今日、としさんのお宅にリハビリに伺って、
その時に、kaoruさんのことを彼女に少しお聞きしちゃいました。
そして、kaoruさんのブログを二人で拝見させて頂きました(^_^;)。
(リハビリ中に何やってるんだろうね(笑)...。)
僕もネコ好きで、実家でネコを飼っています。
たまにこのブログにも登場するので、宜しくお願いします。
kaoruさん、せっかくなので、
僕のブログにリンクを張らせて頂きますね(^o^)/。
また、ご意見をお寄せ下さい。お待ちしております。
リハビリの仕事をしていると、
科学だけじゃどうにも割り切れないものに出くわすことがあると思います。
僕らはついつい、
あるひとつの方法論を立てれば、対象が自ずと明らかになってくると思い込みがちですが、実はそうでないこともいっぱいある。
コミュニケーションもそのひとつだと思うのです。
実は今日、としさんのお宅にリハビリに伺って、
その時に、kaoruさんのことを彼女に少しお聞きしちゃいました。
そして、kaoruさんのブログを二人で拝見させて頂きました(^_^;)。
(リハビリ中に何やってるんだろうね(笑)...。)
僕もネコ好きで、実家でネコを飼っています。
たまにこのブログにも登場するので、宜しくお願いします。
kaoruさん、せっかくなので、
僕のブログにリンクを張らせて頂きますね(^o^)/。
また、ご意見をお寄せ下さい。お待ちしております。
by hiro-ito55
| 2012-11-25 00:01
| 医療・福祉・対人支援
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Comments(4)