まっちゃんとの座談会
2012年 10月 13日
介護保険には、
介護度に応じた区分支給限度額(月単位)というものがあります。
受けるサービスがどのように組み合わされているかは、
利用者毎に異なりますが、
どの利用者も、限度額を毎月ピッタリには使い切れず、
きっとみんな、毎月足りないと感じているか、
余ってしまっているのではないでしょうか。
これを何とかできたら面白いなと、
以前、同じ職場の松田さんというPTさんと話したことがあります。
そしてそれには、
ケータイ会社のパケット通信サービスを参考に出来るのでは、
と松田さんが言い出したことで、たいへん話が盛り上がりました。
例えば、ケータイのパケット料金には、
使わなかった無料通話分を、自身の翌月分に持ち越したり、
家族間でシェアしたりすることができるサービスがあります。
『分け合える』とか、『繰り越し』などと呼ばれているサービスです。
このサービスを、
もし、介護保険の区分支給限度額に当て嵌めることができるとしたら...。
例えば、
区分支給限度額が、35830単位の要介護5の方で、
毎月30000単位を使用すると、5830単位は余ります。
今の制度では、この余った5830単位は
そのまま使わずに立ち消えとなってしまいますが、
彼と話したのは、
自身に与えられた区分支給額を、
利用者自身が、数か月間保有する権利として位置付け、
それをどのように使用するかは、
利用者自身の判断に委ねるという発想で、
これによって、利用者自身が主体性を持って、
中・長期的に、介護保険を選択的に利用できるというもの。
それは、
余った単位を毎月、保険者である各市町村でプールして、
翌月の限度額に上乗せする、或いは、他者に分けてあげるという形で、
具現化することができます。
例えば、今月はリハビリの回数が8回だったけど、
翌月は12回分利用することができるとすれば、
来月はデイに通う回数や時間を増やして、
リハビリ強化月間として少し頑張ってみようと、
そういう、
自分のための、緩急を付けた利用の仕方が可能になります。
また、
自分が片麻痺であれば、
同じように片麻痺で苦しんでいる方に、
自分の使わない単位を、分けてあげることができる場合を考えてみると、
毎月のサービス利用の組み合わせで、
自分には使い切ることができない単位が発生すれば、
その使用権利を、他者に分けてあげることで、
自分が誰かの役に立っているという満足感を得ることができるし、
無理なく他者の役に立つことができます。
使わない限度額分は、
自分ではなく、他者に分けてあげることで、
共に支え合うという、
ちょっとした共存意識を、作り上げることができます。
つまり、
余った限度額を自分のために使うか、
或いは他人のために使うか、
それを、
利用者自身が決めることができれば、
介護保険サービスは、
今よりももっとバラエティーに富んだ利用の仕方が可能になり、
介護保険を使用するに当たっての、
利用者自身の主体性や、共存の意識も芽生えてきます。
こういった利用の仕方が可能になれば、
個人的には面白いと思うのですが、
松田さんの話によれば、
厚労省が制定した現在の介護保険制度では、
限度額算定の基準となる標準モデルからいって、
保険サービスの質や選択が、
利用者のニーズに基づいているようには設計されておらず、
また、
多くの利用者が、支給限度額ギリギリまで使うようになったら、
社会保障としての介護保険の財源が、破綻する恐れもあります。
ですから、
保険単位を繰り越せる、或いは分け合えるという発想は、
彼らの側からは、恐らく出てこない。
仮にそういう発想が生まれたとしても、
新たにサービス利用率の統計を取り直し、
まずは、支給する区分限度額を低く抑えるように、
標準モデルそのものを、変更するのではないでしょうか。
その他にも、
介護保険サービスの質や選択に関して、
所得再分配機能、被保険者側、保険者側、事業者側の、
それぞれの視点から論じた場合に、
どのような問題点が浮き彫りになるのか、
そのへんのお話を、
先月、松田さんとお会いして、また色々と聞かせて頂けました。
(4時間ぐらいしゃべったかな...。)
彼は、
利用実績から、介護保険サービスの研究をされており、
彼の論文も、たいへん興味深く読ませて頂いています。
個人的に思うのは、
サービスの質や量の選択に対して、
利用者自身の主体的な判断に委ねられるというのは良い制度であり、
介護保険制度というのは、元来それを具現化するべきものだと思います。
松田さんの言うように、
『保険あってのサービスなし』
という状況が発生してしまうのを回避するために、
支給限度基準額の設定が、
事業所運営が成り立つことを、第一に配慮して
決められた可能性が高いのであれば、
利用者自身の保険単位を繰り越せる、或いは分け合える
という発想も出てくる筈もないし、
制度化してバックアップされることもないでしょう。
しかし、
今の介護保険サービスは、
本当に利用者が使いたいと思っているサービスで、
そして彼らが、主体的にそれを選択して利用しているのかどうか。
これを考えることは、
利用者の笑顔が増えるという、
専門家からはバカにされがちな効果も含めて、
自分たちの提供するサービスの質や量、
ひいてはエビデンスそのものを見直すことにも繋がるし、
それは、
現場で働く僕らにとっても、研究者にとっても共通の、
根本的な課題であると思います。
by hiro-ito55
| 2012-10-13 16:00
| 医療・福祉・対人支援
|
Comments(0)