客観的な立場の第三者が存在しない

厚生労働省の分科会に提出された統計によると、

訪問リハビリ件数は、ここ数年増加傾向にあるようで、

その傾向は今後も続く見通しであるようだ。

                ・

訪問リハビリに従事するリハ職が増えているのは良いことだとは思う。

けれど、訪問リハビリという仕事はやりがいもあるが、

自分の身は自分で守らなければならない仕事でもあることは忘れてはならないと思う。

               ・

病院や施設では、

決められた場所に利用者や患者さんが集ってそこでリハビリを受けるけれど、

訪問リハビリでは利用者さんの自宅がリハビリを受ける場になる。

そこには当事者同士しかいないし、そういう場で仕事をするのが在宅医療なのだ。

               ・

それはどういうことかというと、客観的な立場である第三者が存在しないということ。

もっと言えば、

何が事実で何が事実でないかをしっかりと証明する人間が誰一人いない場で、

僕らは仕事をするということだ。

               ・

利用者や家族から寄せられる苦情。

医療者側と利用者側間の見解や方針のくい違いであれば修正も可能だろうが、

ケアマネや他事業所を経由して伝えられたものの中には、

明らかに事実と異なるものも含まれていることがある。

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その際に、自分の身をどうやって守るのか。

どこまでが事実であり、どこからが事実と異なるのか。

それを証明することはたいへん難しいし、その困難さを僕も経験したことがある。

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介護力が不足していたり、利用者さん本人の現実検討力に問題があったりする場合、

精神的に追い詰められた状態で生活しているケースが多い。

               ・

他者の言動に過剰に反応するお宅においては、

一旦苦情が出てしまうと、どこまでが厳密に事実であるかを証明することは、

ほぼ不可能に近いことがある。

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言葉は悪いが、100%言ったもん勝ちにされるリスクが存在するのも、

訪問リハビリという仕事だと思う。

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その際に、自分をどう守るか。

アセスメントは、事実をひとつひとつ積み上げて、

それを確認しながら方向性を示していく作業であるけれど、

同時にそれは、自分自身を守るための作業でもあると思う。

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何が事実で、何が事実でなかったのか。

いざという時にそれを証明できるのは、

アセスメントの積み重ねと記録と、その共有しかないのかもしれないが、

それさえも歪められてしまう現実も存在するということは、

個々のリスクマネジメントをよほどしっかりしていかないと、

少なくとも自分の身を、自分の力で守ることはできないということでもある。

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多くの人の目に触れる機会の多い病院や施設で働くこと以上に、

リハ職としてのアセスメントやリスクマネジメント能力を高めなければいけないのが、

訪問リハという仕事であると思う。

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# by hiro-ito55 | 2017-12-11 19:10 | 医療・福祉・対人支援 | Comments(0)

ラポール

患者さんや利用者さんとの信頼関係を築くという意味で、

僕らの世界でよく使われる言葉に、ラポールというものがある。

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信頼関係を築くために一番必要なのは、相手をよく知ることなんだけど、

「知る」と一口に言っても、世の中には色々な知り方というものがある。

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科学的に知るというのも知ることのひとつだ。

けれど、その人のすることに共感を覚えることや、共鳴するという知り方もある。

               ・

何かに心惹かれること、感動を覚えることも、

それを知るという、僕らに与えられた大事な知性の働き。

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相手のことを知りたければ、

自分の知りたいというその気持ちを、何よりも大切にしなければいけない。

自分が相手のことを知りたいと思えば、その相手もまた、

ああ、この人はこういう人なんだなと、その人の中にも相手の姿が湧いてくる。

               ・

そういう経験の積み重ねが、

互いの共感できるもの、共鳴できるものの姿を確かなものにしてくれる。

               ・

利用者さんが、お箸の練習を必死に頑張っているのは、

手指の機能を向上させたいだとか、筋力を向上させたいからじゃない。

ご飯をお箸で食べたいからなんだ。

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僕らの専門性は、利用者さんの価値観を形にしていく上で発揮されるべきもので、

その価値に優先してあるものではない。

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そのことが分かっていれば、

作業療法は、利用者さんの価値に共感し、互いに共有しえたものを、

利用者さんとともにひとつの形にしていくことができる。

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相手を知るということは、自分の解釈に相手を引き入れることではない。

相手の側に降りて行って、迎え入れることだ。

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それが相手を知り、信頼を得るただひとつの方法だと思う。

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# by hiro-ito55 | 2017-10-16 17:07 | 作業療法 | Comments(0)

動作を考える上で参考になる本


身体の使い方は人それぞれ。
でも、みんながみんな全くバラバラな使い方かといえば、そうではないと思う。

何かをしようとして、それに必要な身のこなし方を学ぶことがある。
動作に求められるある一定の身のこなし方。それを「型」と呼ぶのだろう。

型は「所作」や「身振り」とも言い換えることができる。
そして、身振りの立派な人は、美しい立ち姿をしているものだとも思う。

きれいな所作や身振りを身に着けている人は、動作に求められる身のこなし方を知ったうえで、
それぞれの持つ身体技能の特徴を、それに見事にアジャストさせているのではないか。

型や所作というと、ちょっと堅苦しく聞こえるかもしれないけれど、
人の身体技能は審美的であるということは、日常の何気ない動作でも同じだと思う。

無理のない自然な動作であれば、それは立派な身のこなし方であって、
もし、リハビリで獲得する動作がそのようなものであれば、
それについても同じことが言えると思う。


以下に紹介する三冊の本は、リハビリの専門書ではないけれど、
人の身体の動きを、今一度広い概念で捉え直すためにはとても参考になるものなので、
遠回りでも、なんとなく僕と同じようなことを考えている人には、ぜひお勧めしたい。



たたずまいの美学 - 日本人の身体技法 (中公文庫)

矢田部 英正 / 中央公論新社


まず一冊目は「たたずまいの美学」。
西洋人と日本人では、そもそも立ち方、座り方、歩き方が根本的に違う。
それを、履物や着るものの違いや、日常の何気ない動作から比較・分析し、考察している。
内容は具体的で、且つ解剖学的な観点からの考察もしっかりと成されているため、
生活文化から、いかに我々の身体形成や動作が影響を受けているかという、
ほとんど僕らにとって無意識レベルの話を、分かりやすく教えてくれる良著。




逝きし世の面影 (平凡社ライブラリー)

渡辺 京二 / 平凡社


二冊目は「逝きし世の面影」。
一冊目のたたずまいの美学と重なる部分があるけれど、
こちらは、幕末から明治にかけての日本人の生活様式や文化の特徴を、
外国人の手記を元にして考察したもの。
だから直接には、現代人の動作に関係のないものと思えるかもしれないが、
文明や精神性の伝統という観点から見れば、
一冊目よりもより広義な意味で生活を捉え直した内容になっている。
そのため、具体的な身体技能の話というよりも、
僕ら現代人の生活や文化のアイデンティティーとなっているものを、
歴史的にもう一度捉え直したいと考えている人に、お勧めの一冊だと思う。




はじめての4スタンス理論

実業之日本社


そして最後は「はじめての4スタンス理論」。
スポーツの世界では、それなりに知られている一冊で、
スポーツ選手にとって、どのように身体を使えば自分の能力を最大限に発揮できるかを、
四つのタイプに分けて解説したもの。
それを主に、身体軸の使い方という観点から説明しており、
筋トレではなく、重心移動の使い方によって技能を体得することを目的としているため、
スポーツ選手だけではなく、一般の生活者の身体の使い方としても参考になる一冊。
なによりも、身体技能の伝統や文化といった堅苦しい話はないので、
個人的には、現代人にとって比較的受け入れやすい内容となっていると思う。
               ・
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               ・
日常の過ごし方や生活動作の再構築を考える上では、参考になる三冊だと思う。









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# by hiro-ito55 | 2017-08-21 13:58 | 作業療法 | Comments(0)

作業療法士です。日頃考えていることを綴ります


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